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マスクバブルが「崩壊した」事情
◎「マスクバブル」の崩壊は本当にコロナ収束の兆しなのか
 (2020/05/15 06:00 ダイヤモンド・オンライン 鈴木貴博)

◇大久保駅の商店街で起き始めた「マスクバブル」の崩壊
 私の仕事場からほど近い、新大久保の商店街で「マスクバブル」が崩壊し始めました。先週までは50枚入りのマスク一箱が3500円の水準だったのに、5月13日の朝に確認してみると、新大久保駅近くの一番手広くやっているお店では4層構造のものが1箱2200円、3層構造が2000円まで値下がりしていました。駅から離れるにつれて相場も下がり、一番離れたお店では1580円でした。

 「マスクバブルが崩壊したから、もうすぐコロナも収束しそうだね」と友人が言いました。そこで私は、未来予測の専門家として、マジ顔で答えました。

 「それは因果関係としては正しくないが、未来予測としては正しいよ」

 いったいなぜ、マスクバブルが崩壊することでコロナの収束が予測できるのか、一見論理的には見えないけれど実は論理的に正しい、という話をしたいと思います。

 まず、マスクバブルが崩壊した理由は何でしょう。政治家が「アベノマスクの成果が出てきた」と高らかにツイートしています。家庭にマスクが出回ったから高値の転売ヤーの市場が崩壊したという永田町の論理なのですが、1ミリくらいはその効果があったかもしれないけれど、因果関係としては正しくないと思います。

 理由は、厚生労働省の「布製マスクの都道府県別配布状況」を見ればわかります。先週段階で「配布中」表示は東京都だけ。ようやく最近、大阪府と福岡県が配布中となり、埼玉県、千葉県、神奈川県も発送は5月14日から。大半の都道府県はまだ準備中です。家庭に届いていないものがバブル価格を崩壊させるというのは、ちょっと論理の飛躍でしょう。

 マスクバブル崩壊の最大の理由は、発注と生産のタイムラグです。これは若いコンサルタントが、「経済ゲーム」と呼ばれる研修で体験学習することが多い経済現象の1つです。ある商品が急に人気が出て市場で品薄になったとして、小売店、卸、メーカー役それぞれが1週間ごとに発注と生産拡大を繰り返したらどういうことが起きるのかという、シミュレーションをするのです。

 市場からマスクが消えて、小売店が一斉に発注します。それが卸経由でメーカーに注文として伝わるのですが、需要に応えるためにはメーカーは中国の協力工場に増産依頼をしなければなりません。するとその増産分が日本に届くまで、1ヵ月半のタイムラグが起きます。その間、毎週のように小売店の発注が増え続け、中国の工場は大増産状態になります。

 今回のマスク不足のケースはちょっとややこしくて、そこで中国政府がマスクの輸出を規制したり、その目を盗んで中東経由で日本にマスクが横流しされたりして、流通が複雑になっている。そうした経緯を経て街中に出現するのが「ナゾノマスク」現象です。

◇マスクバブルの崩壊は単に供給量が増えたから?
 ただ、いずれにしてもタイムラグによって、3月に不足したマスクは5月になると日本に出荷され、マスクの洪水現象に変わります。実際、私の自宅の近所のスーパーでは、GW中に実に久しぶりに50枚入りの日本語パッケージのマスクが棚に並びました。これは「ナゾノマスク」にとっては脅威です。

 それまでは、高値で横流しされたものをお店が仕入れても高値で売れたのですが、このまま在庫を持ってしまうと危険な空気になってきました。そのことから今、新大久保の小売店がマスク価格を値下げして、売り切ってしまおうとしているわけです。

 さて、冒頭の話に戻ってここではっきりさせておきたいことは、マスクバブルの崩壊の因果関係はマスクの供給量がものすごく増えたので、マスク価格が暴落し始めたということです。

 「でも、国内の新規感染者数も急激に減っているよね。これはマスクが売れなくなったからじゃないの?」と真顔で聞いてくる人がいました。はっきり言いますが、仮に因果関係があるとしても逆です。マスクが売れなくなったから感染者が減るのではなく、感染者が減るからマスクが売れなくなるのが正しい論理でしょう。

 いやいや、言いすぎました。本稿の最後で、様々な事象を相関関係で見れば「マスクバブルが崩壊するとコロナ収束も近い」といえるという話をするので、自分にブーメランが戻ってこない程度に、プチ謝罪しておきます。

◇感染者数減少の因果関係を説明できるシンプルな数理モデル
 ではなぜ、感染者が減ってきたのかを因果関係で説明しましょう。

 実際に、国内の新規感染者は減っています。緊急事態宣言発令直後には1日600〜700人レベル、4月中旬は1日400人前後だったところから、4月下旬には1日平均200人レベルへと減少しました。ただ、28日が279人、5月1日が284人、5月2日が291人と、ちょうど政府が緊急事態宣言の延長を検討するタイミングだけ新規感染者が増加したのは、若干不思議です。

 そして、緊急事態延長決定後の5月5日以降は、むしろ1日あたり100人前後に新規感染者数は急減している。一番感染がひどかった東京都でも、すでに10日連続で2ケタが続き、直近では新規感染者は30人前後まで減っています。

 なぜ感染者が減ってきたのかは、数理モデルから説明可能です。私は経営コンサルタントとしては未来予測を専門にしていて、4月20日時点でクライアントに対し、「5月20日には感染者が100人を切るようになるので、緊急事態宣言が続いていたとしても、いつでも事業をリスタートできるよう、準備をしたほうがいい」とアドバイスしていました。そのときに私が使っていた数理モデルは、北大の西浦先生とは違うごくごくシンプルな以下のようなものでした。

◆2週間後の新規感染者数=現在の新規感染者数×[基本再生産数×(1−自粛率)]
 基本再生産数というのは、1人の感染者が何人に感染させるのかという数字であり、新型コロナに関して言えばWHO(世界保健機関)は「1人の感染者は平均で直接1.4〜2.5人を感染させる」と発表していました。この数字に接触率、つまり(1−自粛率)をかけたものが、実効再生産数を表す数式です。

 言い換えると「今日発見された新規感染者がうつしてしまった人の数が、2週間後の統計に反映される」という非常に簡略化した数理モデルです。シンプルではありますが、4月8日に緊急事態宣言が発令され、1日の新規感染者数が600人前後に増えたところから4月下旬までの減少傾向は、実はこのモデルと大体一致します。

 具体的には、4月中旬におけるグーグルのGPS情報からの自粛率が65%くらいだったので、自粛中の接触率を35%くらいと想定し、基本再生産率を1.7人と想定すると、このシンプルなモデルでも、だいたい国が発表する新規感染者数と一致していたのです。

 ところが、1日の感染者数が平均して100人を切るタイミングは、私が予測した5月20日よりも早まり、5月13日時点ですでにそれが定着しています。では、何が違ったのでしょうか。

 GW中は自粛が緩んで感染が再拡大するのではないかという懸念もありましたが、実は我々国民は結構我慢をして、GW中も自粛率はそれほど変わりませんでした。私の予測でも自粛率は変えていないので、そこは想定通りでした。

◇感染者数減少の鍵を握る「基本再生産数」の意外なトレンド
 だとすると、論理的に言えることは、基本再生産数が下がったということです。私は医学の専門家ではないですが、メディアで何度も流れている専門家の話を理解した限りでいえば、「1人の感染者が1.7人にうつす」という想定は冬の間の数値のようです。コロナは風邪のウイルスなので、気温が暖かくなったらそれにつれて、基本生産数は下がると考えられるのではないでしょうか。

 その仮説を基に、私のモデルで4月の基本再生産数を1.4に修正すると、モデルが現実にぴったりと近づいてきます。医学的に正しいのかどうかわかりませんが、GWにぽかぽかと暖かく夏服を着て外出できるようになったことから、GWからはWHOの発表の幅を下回る1.2の数字を数式に代入すると、5月13日の感染者数の予測値は65人となり、昨日発表された新規感染者数の50人に近づきます。

 いずれにしても公表データのグラフを見ると、新型コロナは確実に収束に向かっているようです。そして私の分析が正しければ、その理由は自粛率が高い状況が続いていることに加えて、暖かくなってコロナが感染しにくくなってきたことだと予測できます。

 みなさんも、手元で電卓をたたいて計算していただけるとわかりますが、前述の式で基本再生産数を1.0で計算すると、緊急事態宣言解除が予定されている6月頭には、1日あたりの新規感染者数は十数人まで減るはずです。これはあくまで統計モデルからの予測ですが、それが当たるかどうか楽しみに、月が明けるのを待っていただければと思います。

 さて、冒頭で述べた仮説に決着をつけましょう。

 「マスクバブルが崩壊したのでコロナ収束も近い」というのは、因果関係的としては正しくないという話を、これまでしてきました。コロナ収束が近いのは、マスクとは関係なく、国民が高い自粛率をキープして我慢してきた中で、暖かくなってきて他人にうつりにくくなってきたからです。

 一方で、マスク不足のために増産していたマスクがどんどん日本に到着するようになった。その段階でコロナが収束しそうになってきたから、マスクの投げ売りが始まったというのが因果関係に基づく説明です。

 しかし、私のような未来予測の専門家の視点でいえば、そのような因果関係による分析は実社会のほんの一部のことしか説明ができないということも事実なのです。本当はさまざまな要因が複雑に絡み合って、未来に起きることが決まる。だから未来予測の専門家は、因果関係よりも相関関係に広く注目することに力点を置いています。

◇相関関係で眺めればマスクバブルの崩壊からコロナ収束は予測できる
 春が来たということは、なぜわかるのでしょうか。

 「桜が咲いて春が来た」と言えば、因果関係にうるさい人からは「ちーがーうーだーろー!」と突っ込まれるかもしれません。

 確かに、因果関係としては逆で、春が来て気温が上がったから桜が咲いたのです。しかし、私たちが世の中の変化に気づくのは、そういった相関関係からだということも事実なのです。それに、桜が咲いたことを喜んでいる相手に対して、「違う」と論理的に突っ込むのは野暮というものです。

 つまり、未来を相関関係で眺めれば、「マスクバブルも崩壊し、マスクをつけずに外出する人も増え、友達から飲みに誘われるようになって、ビックカメラで任天堂スイッチが手に入り、パチンコ屋が営業を再開し、賑わっている」ことに気づいたら、「そこからコロナ収束が近いことがわかるよ」という話なのです。

 (百年コンサルティング代表 鈴木貴博)
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