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「サザエさん」タブーへの挑戦
◎50周年「サザエさん」過去最大の危機は“今”「変わらない日常」と「タブーへの挑戦」
 (2020年05月09日 08:40 ORICON NEWS)

 アニメ放映50周年を迎え、様々な記念事業が行われている『サザエさん』。

 全国巡回展「サザエさん展THE REAL」では、特殊メイクでサザエさん一家を表現。あまりにリアルな仕上がりに、ネット上では「怖い」「狂気を感じる」「完全にサイコパス」と話題になっている。

 これまでもドラマ、舞台、展示会と幅広く展開してきた同作品だが、今回これまで守り続けてきた、サザエさんの“タブー”に挑戦したという。その理由を制作担当に聞いた。

■相次ぐ「怖い」の声は狙い通り「サザエさんの“不自由さ”に縛られたくなかった」 先月、「サザエさん展THE REAL」(現在はコロナ禍で休止中)で展示されていたカツオやワカメの姿にネットがざわついた。

 特殊メイクで再現されたサザエさん一家はアニメ比率のまま等身大で作られており、波平のホクロやシミ、シワ、白髪、マスオの髭剃り負けの具合まで緻密に表現されている。

 当イベントプロデューサーの大山鐘平氏によると、来場者からの相次ぐ「怖い」という声は「狙い通り」だという。

 「アニメ50周年と言う節目のタイミングで、あえて今まで見たことがないエッジを効かせた“サザエさん一家”を見せることで、“あれ!?”という違和感を与えたかった。その感情こそが更に注目して作品を見ていただくきっかけになるのでは、と考えました」

 コロナ禍で休止しているとはいえ、話題という意味では大成功となった「サザエさん展 THE REAL」。

 これについて大山氏は、「50周年だからこそ出来る挑戦」だと胸を張る。では、何に対しての“挑戦”だったのか。『サザエさん』コンテンツを統括するフジテレビ編成部の渡辺恒也氏にも話を聞いた。

 「サザエさんには“いつまでも変わらない”というイメージがあります」と渡辺氏。

 「ですがそれは、サザエさんだからアレはダメ、コレはダメというベクトルへの誘因につながる恐れがある。もちろん変えてはいけない部分では変えたくありませんが、その“不自由さ”に抗するが如く、50周年はこれまで出来なかったことをやろうということがテーマになりました」(渡辺氏/以下同)

■一度は磯野家に液晶テレビ導入も検討 50年で変わった所と変わらない所の線引きとは

 「変えてはいけない部分では変えたくない」。当然だが、『サザエさん』のスタッフは同アニメをこよなく愛している。ゆえに、時代の変化に合わせてのサザエさん一家のあり方、生活風景には強いこだわりがある。

 例えば、磯野家の茶の間にあるテレビ。「一度液晶に変えてみる試みをしたことがあるのですが、茶の間の空間が冷たいものになってしまった。そのため、使えるうちはあのテレビで行こうということになりました」

 現実には、生活のデジタル化は年々進んでいる。波平が務める会社のデスクにパソコンがないことは、しばしばネットで揶揄されている。

 だが、実はこれにも理由がある。「パソコンを設置してしまうと波平の視線がパソコンの画面に行ってしまいます。その絵では、彼のキャラクターを描く際に不自由なことが多々。同僚と話す波平、仕事をしている波平、これらを波平らしく自然に描くために、パソコンは敢えて置いていません」。

 だが、よく見ると別フロアにはパソコンがある。つまり、決してパソコンがない世界ではないということらしい。

 スマートフォンもそうだろう。渡辺氏は、磯野家にネットが通じているかどうかは「ご想像にお任せします」とした上で、こう解説してくれた。

 「脚本家には4コマ原作を必ず1〜数本入れることを条件に発注しています。例えば、もしスマートフォンがあることを前面に出すと、原作にあるカツオが波平を駅に迎え行く際のすれ違い…といったネタが使えなくなってしまう」。

 『サザエさん』はドキュメンタリーではなければ、日本の平均的な家族観を描こうとする作品でもないと語る渡辺氏。

 「アニメ作品にはそれぞれの世界観や設定があるように、『サザエさん』も同様です。原作にある“磯野家の生活を描くこと”を第一に、その時々でベストなマイナーチェンジを考えています」

 ドライブシーンで言えば、カツオやワカメが以前はしていなかった後部座席のシートベルトを今では必ず締めている。しかし、夏も冬も冷暖房は出てこず、暑い日は窓を開け、寒い日にはこたつを出す風景はいつまでも変わらない。

 原作の世界観を損なわないことを条件に、時代に合わせて違和感がある物は変え、原作の面白さを活かす物は変えずに残しているのだ。

■1話ごとに“リセット”が原則、年を取らないはずの磯野家の20年後描いた理由

 変わらないと言えば、登場人物が年を取らないことも気になる方は多いはずだ。

 渡辺氏いわく、この秘密を解く鍵は“リセット”だそう。

 「『サザエさん』の物語は1話ごとにリセットされます。誤解を恐れない言葉を使うと、1話が終わると、次回では前回の話は“なかったこと”になっています。1、2話との繋がりを考えて3話を作ることはありません」

 確かに、サザエさんが髪型を変えるお話があっても、次の話に移れば、彼女の髪型はすっかりあのお決まりスタイルに戻っているのだ。

 これにも理由がある。『サザエさん』は、決して登場人物の成長を描く物語ではないからだ。繰り返される1年。その四季の中で暮らすサザエさん一家の物語。1年は何度も“リセット”されながら繰り返されるので、当然年は取らない。

 そんな『サザエさん』の“不変性”に挑戦を試みたのが、先述のイベントだったということだ。

 さらに渡辺氏は、磯野家の10年後を描いた藤原紀香主演の舞台の設定に関わったほか、20年後を描いた天海祐希主演の実写ドラマも手掛け、この“タブー”に挑んでいる。

 「20年後というと、カツオが31歳、ワカメが29歳、タラちゃんは23歳。この若者たちの年齢は、社会に出てある程度経験をして壁にぶち当たる時ですよね。ワカメも女性としてどう生きようかと、タラちゃんは就活を考えていて、それぞれが人生のターニングポイントを迎えている。磯野家にも人並みの悩みがないわけではないけども、家族の温かさがあれば乗り越えていけるというメッセージを伝えたかった。“未来に向かって歩き出す”というのがゴールになるとイメージしていました」

 50年守り続けてきたタブーにも挑み、『サザエさん』の新たな境地を開拓した渡辺氏。

 我々からしてみれば“変わらぬ”良さが勝手に根付いているが、同作品は長い歴史の中で、当然様々な局面を迎え、1つ1つ乗り越えてきたからこその今の地位がある。

 『サザエさん』の映像作品は実はアニメよりも映画が先だったし、アニメ放送当初は今とは全くテイストの違うギャグテイストだった。

 最近でも、20年近く一社提供だった東芝スポンサーが降板したり、長年作品を支え続けてきた声優交代が余儀なくされたり、水面下であらゆる変化に対応してきたからこそ、不朽の名作が守られ続けてきたのだ。

■50年で制作ストップは初めて、危機迎えた今こそ「変わらない日常を描くのが使命」

 そんな『サザエさん』において、一番の危機はいつだったかと渡辺に尋ねてみると、「今」という答えが返ってきた。

 新型コロナウイルスの影響を受けアフレコ収録が休止中なのだ。50年の歴史において、制作がストップするのは初めてだという。

 現在は収録済みの作品を放送しており今後の制作については未定だが、こんな時だからこそ、国民的作品にしか伝えられないメッセージがある。

 「“変わらない日常”を見せるのが『サザエさん』で、これこそが同作品が果たすべき仕事だと私は考えています。現実ではコロナ禍で自粛が続いていており、日常が元に戻るには時間がかかるかもしれません。ですが、『サザエさん』の世界にはコロナ禍の現実は存在しません。今こそ、いつも通りの家族の“日常”を描いていきたい。そして辛い現実を一瞬でも忘れ、ほのぼのしていただければ」。

 日常が失われた今だからこそ、“終わらぬ日常”が描かれる『サザエさん』は重要性を帯びる。サザエさん一家は、老いることなく、外出自粛することもなく、これからも自分たちの時間を生き続けるだろう。そしてこの日常こそが、今の私たちの癒やしとなるはずだ。

 (取材・文=衣輪晋一)
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