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賃貸に独り、老朽化で始まる転落人生
◎「貧困ビジネス」施設が“終のすみか”に…アパートの老朽化から始まる転落人生
 (2020/05/05 17:00 AERA dot.)

 新型コロナの影響で新たな貧困層の増える可能性がある。それがなにを引き起こすのか? 仮に生活保護制度を利用しても、行政が住まいの確保にまで動いてくれるケースはまれである。福祉事務所の中には、立ち退きに遭っている高齢者が窓口に相談に来た場合、民間の宿泊施設への入所を勧めるところが少なくない。その中には、「貧困ビジネス」と言われる劣悪な環境の施設も多く含まれている。ホームレス問題や「大人の貧困」の実態をルポした『閉ざされた扉をこじ開ける』(朝日新書)の著者、一般社団法人つくろい東京ファンド代表理事・稲葉剛氏が報告する。

*  *  *

■困難極める単身高齢者の部屋探し
 住まいの貧困は世代を越えて広がっている。2016年12月、私が運営するシェルター「つくろいハウス」(東京都中野区)に80歳の男性が入所した。

 佐久間さん(仮名)は月に十数万円の年金収入があるものの、2年前、住んでいたアパートが老朽化して取り壊しになり、立ち退きを余儀なくされた。

 すぐに次のアパートを探したものの、不動産店で自分の年齢を告げると、どこの店でも「それは難しいですね」と言われ、退去までに次の部屋を確保することができなかった。

 仕方なく、荷物を処分して、カプセルホテルに移り、部屋探しを続けたものの、いつまで経っても見つからない。そこで、ホームレス支援団体に相談し、私たちのシェルターに入居することになったのである。

 「つくろいハウス」は、ホームレス状態にある人がアパートに移るまでの一時的な待機場所であり、近隣の不動産店の協力も得て、入所者がアパートに移るためのサポートも行っている。

 しかし、佐久間さんの部屋探しは困難を極めた。ご自身は持病もなく、足腰もしっかりしているのだが、その年齢ゆえにアパートの大家さんたちが孤独死を恐れ、受け入れてくれないのだ。

 アパートに入居した後も私たちが緊急連絡先となり、定期的な安否確認を行うと言っても、受け入れてくれる物件はなかなか出てこなかった。

 私は過去に80代の単身高齢者の部屋探しを何度かお手伝いしたことがある。

 その際に協力してくれた知り合いの大家さんに今回もお願いしようと思って連絡をしたところ、大家さん自身が高齢になったため、すでに代替わりしていて、アパートの管理や入居審査は不動産会社に任せることになったという。

 その管理会社の担当者は親身になって話を聞いてくれたものの、検討の結果、やはり80代の単身者の入居は無理と言われてしまった。

 その後も各方面をあたった結果、最終的に2017年2月下旬、佐久間さんはなんとか6畳一間の風呂無しアパートに入居することができた。

 ご本人は、「銭湯が好きだから風呂無しアパートでも良い」と言っていたが、バスルーム付きの物件にこだわっていれば、いつまで経っても部屋は見つからなかったかもしれない。

■貧困ビジネス施設が「終のすみか」に
 佐久間さんのように、住んでいた賃貸住宅を立ち退きによって追われてしまう高齢者は少なくない。

 首都圏では2011年の東日本大震災以降、耐震性の弱い木造賃貸住宅の取り壊しや建て替えが進んでおり、その結果、そこに暮らしていたお年寄りが住まいを失ってしまうケースも散見される。

 立ち退き料が支払われたとしても、次に入居する住宅が見つからないために、高齢者がホームレス化してしまうのだ。

 こうした木造賃貸住宅(木賃アパート)は、戦後の住宅難の時代に作られたものが多く、かつては山手線を取り囲むように「木賃ベルト」と呼ばれる木賃アパート密集地域が広がっていた。

 木賃アパートの家賃は安く、かつては地方から都市に流入した学生や労働者の受け皿になっていたが、現在暮らしている住民の多くは低年金の高齢者だ。

 例えば、年金収入が月10万〜11万円しかない単身高齢者が家賃3万円の風呂無しアパートに暮らしているといった具合である。

 立ち退きによって木賃アパートを追われた高齢者はどこに行くのだろうか。

 木賃アパートが建て替えになる場合、ワンルームマンションが新たに建てられることが多く、それに伴って家賃は月6万円以上に上昇することになる。

 家賃をまかないきれないため、新しい物件に入れない高齢者の中には、立ち退きをきっかけに福祉事務所に相談し、生活保護を申請する人もいる。

 収入が生活保護基準(東京都内で単身世帯の場合、住宅費を含めて約12万〜13万円)を下回っており、資産がほとんどないといった要件をクリアすれば、年金生活者でも生活保護を利用できるからだ(この場合、生活保護基準と年金額の差額が保護費として支給される)。

 しかし、生活保護制度を利用しても、行政が住まいの確保にまで動いてくれるケースはまれである。

 福祉事務所の中には、立ち退きに遭っている高齢者が窓口に相談に来た場合、民間の宿泊施設への入所を勧めるところが少なくない。その中には、「貧困ビジネス」と言われる劣悪な環境の施設も多く含まれている。

 2016年12月30日、毎日新聞に掲載された「無料低額宿泊所 死亡、年150人 滞在長期化 東京・千葉」という記事によると、住まいのない生活保護利用者の宿泊場所として運営されている民間の宿泊所において、入所者の死亡が相次ぎ、東京都と千葉県の民間宿泊所だけで年間150人以上が死亡退所しているという。

 また、同記事によると、「船橋市の宿泊所で死亡退所した19人は全員男性で、死因はがんが最多の8人。平均年齢は67.8歳、平均入所期間は4年8カ月で、最高齢は80歳、最長入所期間は8年7カ月だった」という。

 「貧困ビジネス」の施設が高齢者の「終(つい)のすみか」と化している現状があるのだ。

 私自身、生活困窮者の相談活動の中で、「貧困ビジネス」施設に10年以上暮らしていた高齢者に何人も会ったことがある。

 「貧困ビジネス」施設が社会問題になっていることを受けて、厚生労働省は2019年9月、民間の宿泊施設の設備や運営方法の最低限の基準を定めた省令を公布し、2020年度から運用をする予定である。

 居室の個室化も盛り込まれたが、従来から存在する多人数の居室については3年間の経過措置が設けられたので、規制の効果が出るのはまだ先のことになりそうだ。

※稲葉剛(いなば・つよし)
 一般社団法人つくろい東京ファンド代表理事、認定NPO法人ビッグイシュー基金共同代表、立教大学客員教授、住まいの貧困に取り組むネットワーク世話人、生活保護問題対策全国会議幹事。1969年、広島市生まれ。東京大学教養学部卒業(専門は東南アジアの地域研究)。在学中から平和運動、外国人労働者支援活動に関わり、94年より東京・新宿を中心に路上生活者支援活動に取り組む。2001年、湯浅誠氏と自立生活サポートセンター・もやい設立(14年まで理事長)。09年、住まいの貧困に取り組むネットワーク設立、住宅政策の転換を求める活動を始める。著書に『貧困の現場から社会を変える』『生活保護から考える』、共編著に『ハウジングファースト』など。
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