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五輪後の不況は不可避か、試練の日本
◎ 2020年の日本が不透明感を吹き飛ばすための成長戦略「5つの柱」
 (2019/12/29 06:00 ダイヤモンド・オンライン 山田 久)

 ほどなく「オリンピック・イヤー」が始まる。前回の東京五輪が開催された1964年は、数年後にGNP規模が世界2位に躍り出るなど、その後のわが国の世界におけるプレゼンス向上の「助走」となる1年となった。では、数十年後に振り返ったとき、2020年はどのような年として認識されるのか。そして、取り組むべき課題は何か。

(日本総研副理事長 山田 久)

◇米中対立下のデカップリング景気

 まず、2019年の経済を振り返ることから始めよう。今年の世界経済の基調を決めた最大ファクターは「米中対立の本格化」であったといってよい。2019年の世界の貿易量はマイナスに落ち込んだとみられるが、その主な要因は(1)米中間の貿易の大幅減少および、(2)欧州域内の貿易停滞に求められる。一方、米国の貿易は、対中国以外は比較的堅調に推移しており、欧州の貿易停滞はドイツの対中輸出の減少が起点になっている。

 こうしてみれば、今年1年の貿易停滞の主因は中国の輸入減少にあることがわかる。それは米中摩擦による面もあるが、世界的な半導体市場の減速の影響が無視できない。

 中国国内の要因も大きい。同国の企業部門は多額の債務を抱え、過剰な生産力が構造問題になっている。当局は、景気失速に陥らない程度にその調整を進めており、固定資産投資の減速が輸入の大幅減少の原因になっている。

 家計部門については、統計上弱さがみられるが、十分捕捉されていない都市部のサービス消費は堅調である。中国輸入の大幅減少を、同国経済の失速を反映したものとの見方もあるが、実態はなお底堅さを維持しているとみるべきであろう。

 いずれにしても、世界貿易の下振れを反映してわが国の輸出も低迷し、製造業の景況感は悪化した。

 一方、2019年のわが国は、非製造業は堅調を維持し、製造業と非製造業の「デカップリング」が大きな特徴となった。非製造業が堅調な背景には底堅い内需があり、それは(1)所得雇用環境の改善と、(2)建設投資の回復に支えられている。

 所得雇用環境の改善の背景には、言うまでもなく未曽有の人手不足がある。有効求人倍率は高度成長期並みの水準に達し、人口減少にもかかわらず2019年の就業者数は史上最高を更新したとみられる。高齢者の就業率が大きく高まり、外国人労働者が増え続けているからである。そうしたなか、緩やかとはいえ賃金も前年比でプラス基調が定着している。

 10月には消費税率が8%から10%に引き上げられ、駆け込み需要の反動が出るもとで、小売販売額は前回2014年4月の増税時を上回る大幅な落ち込みをみせた。しかし、10月の不振には天候不順のマイナス影響や日韓関係悪化による訪日客減少の影響も混じっている。

 11月に入って売り上げは回復しているとの声が聞かれ、ポイント還元など家計支援策の効果もある。日本総研の試算では、今回の駆け込み需要の金額規模は前回の半分未満にとどまったもようである。堅調な雇用所得環境も考慮すれば、足元で消費は持ち直しに向かっていると判断される。

 建設投資が堅調な背景には、構造的なファクターが影響している。インバウンドの趨勢的な増加が宿泊施設の建設を支え、ネット販売の拡大が効率的な物流施設に対する需要を生んでいる。加えて、現場の人手不足で消化し切れない再開発案件の先送りが、東京五輪関連投資の一巡後の建築需要を下支えしている。

◇2020年は五輪後不況を回避も
 数年先の展望は見えず

 以上を前提に、2020年の景気動向を展望しよう。まず、事業規模26兆円程度、国・地方の財政支出13兆円超の経済対策が、景気浮揚に作用することが期待できる。そうしたなかで、製造業の悪化には歯止めがかかり、非製造業の堅調は続くとみられる。

 製造業を取り巻く環境をみよう。確かに、米中対立の継続、不確実な欧州政治情勢、中東情勢の緊迫化など、海外情勢はリスク要因に事欠かず、楽観は許されない。とりわけ、米中対立は、追い上げられる覇権国・米国の本能的な警戒感と、経済力をつけた中国の歴史的復権への渇望に裏付けられたものであり、長期化は必至である。

 もっとも、米国では大統領選を控え、再選を最優先するトランプ大統領は、米中一時休戦、財政支出拡大、FRBへの利下げ圧力の強化など、あらゆる手を使って、景気回復、株価上昇を演出しようとするだろう。経済の基調も悪くはなく、過去の景気後退の契機になったインフレ率の高まりも住宅バブルの発生もみられない。

 中国も下振れリスクを抱えながら、景気底割れを防ぐ程度の財政的余裕はあり、少なくとも向こう数年は減速しつつも経済成長は持続する公算が大きい。米・中の二大経済が失速を避けるとみれば、わが国を巡る輸出環境も最悪ではなく、一方的に輸出が落ち込んでいく環境にはない。

 こうしてみれば、製造業分野の景況感がこのまま悪化を続けていくことは考えにくく、老朽化した設備の更新需要や合理化・省力化需要を背景に、設備投資も一定水準を維持するものとみられる。

◇下げ止まる製造業と堅調な非製造業
 2020年の実質経済成長率は約1%へ

 一方、非製造業分野は引き続き堅調を維持するとみられる。人手不足は国内の若年人口の大幅減少に伴う構造的要因に根差すものであり、労働需給のひっ迫傾向は続き、賃金の緩やかな上昇傾向は続く。東京五輪で訪日外国人客の一段の増加が見込まれ、インバウンド需要の盛り上がりが期待される。

 建設需要についても、五輪関連案件の終了により水準がやや低下することは避けられないにしても、高水準の投資が継続されるとみられる。インバウンドの増加やネット販売シェアの上昇を受けて、宿泊施設・物流拠点の建設は続く。日本橋地区はじめ東京都市部の再開発案件に加え、関西地区では2025年の万博効果が期待でき、IR(統合型リゾート)が計画通り誘致できればその建設もプラスである。

 人口減少問題の本質は「人口偏在」であり、それが皮肉なことに大都市部の建設需要を刺激するという事態が生じている。一段の建設需要の高まりは期待できないにしても、高水準で堅調な推移が予想される。

 以上の結果、2020年の実質経済成長率は約1%と、潜在成長率並みの推移が期待されよう。四半期でみれば第3四半期までは堅調だが、第4四半期には成長率が大きく鈍化することが予想される。経済対策の効果一巡や東京五輪後の反動が予想されるからである。

 しかし、外需の失速回避、人手不足の継続や底堅い建設需要を勘案すれば、懸念されていた五輪後の不況突入は避けられるように思われる。半面、2020年代は国内人口の減少ペースが加速し、人口構成の高齢化も一段と進展する。数年先までを見通したとき、わが国経済の持続的成長の展望は依然として不透明であることが大きな懸念材料である。

◇人口減少・超高齢化のなかで
 「活力ある経済社会モデル」構築に着手せよ

 ここで情勢認識として重要なのは、2020年代前半の内外経済情勢は決して楽観すべきではないものの、最悪ではないことだ。米中摩擦によりハイテク分野の成長にはさまざまな制約が生じるであろうが、それ以外の分野では悪くはない環境ともいえる。中国経済が減速しつつも成長を続ければ、それに伴ってアジアが成長を続け、豊かな人々が着実に増えていく。

 インバウンドの一層の増加や留学生の呼び込みなどにより、アジアでの日本ファンを増やしていくチャンスととらえることもできる。幸いわが国の安心・安全な生活環境やアニメをはじめとしたユニークな文化へのアジアの人々の好感度は高く、そのソフトパワーを軸にアジアの需要を取り込み、それをテコとして日本の強みを磨いていくという好循環を目指すことは可能である。

 政治体制の違いもあり、中国ビジネスには知財紛争や突然の制度変更などのリスクはつきものであり、現地事業には熟慮による戦略的思考がますます必要になる。一方、データ活用事業などで米国以上に自由な面があり、日々進化する世界第2位の巨大な成長市場に関与していくことは、日本企業ひいては日本産業の国際競争力を維持・強化するのに有効な面がある。

 日本の地理的位置から見ると、中国の人々にとって「憧れ」の対象になる部分を保持していくことが重要で、それには戦後日本の歩みの延長線上に「自由で公平な高質社会」というブランドを鍛え、確立していくことが望まれる。そのためには「貧すれば鈍する」という箴言(しんげん)の通り、経済成長の持続・産業の高度化が不可欠である。

 大きなリスクとチャンスが隣り合わせではあるが、官民の外交力を最大限に駆使しながら、中国の消費力をテコに自らも活性化するという、したたかな戦略がいまわが国には求められている。政府としては米国やEUと密に連携しつつも独自のスタンスを貫いて、日本企業が中国でのビジネスの成果(ノウハウ、利益)を国内にきちんと還流できるよう、粘り強くルールづくりを進めていくべきである。

 さらに、そうしたルールをアジア全域に広げ、透明性の高いイノベーティブな成長市場を東南アジア・南アジア地域に広げていくことを目指すべきであろう。

◇アジアと連携した内需拡大の成長戦略
 を実現するための「5つの優先課題」

 そうしたアジアとのウィン・ウィン関係の構築と連動させた内需拡大の成長戦略を描くことこそ、新年に政府が取り組むべき優先課題である。柱は5つある。

 第1は、欧米と連携しつつ、アジアでの貿易・投資の透明で公平なルールを構築していくことである。知的財産権の保護や国境をまたぐ資本の自由な移動、さらには事業規制の予見可能性が、企業がリスクを取って新たな事業に投資することを促進する条件であり、そうした事業環境の整備をアジア全体で実現していくことに、わが国がイニシアティブを発揮すべきである。

 第2は、「世界・アジアとつながる」を基本コンセプトにした、未来型の都市・交通インフラの再構築である。アジアの人々の憧れとなるようなデジタル技術を活用した未来型の都市空間を具現化するとともに、欧米の人々や豊かになっていくアジアの人々が、ビジネスや国際会議、観光でまずは中核都市を訪れ、そこからさらに地方へと移動し、日本国内に長く滞在してもらう導線を想定した、交通インフラ整備を進めるべきある。

 財源としては、厳しい財政事情を勘案すれば公的財政支出は最小限に抑え、民間資金を活用することが重要である。それには、PFI、PPPの手法を積極的に活用しつつ、長期的な視点から確実に投下資本を積み上げていけるプロジェクトを、官民で推進していくことが重要である。

 第3は、「健康寿命最長国」を目指した取り組みである。WHOの最新データによれば、わが国の平均寿命は世界第1位であり、それをベースに健康寿命最長国としての確固たる地位を築いていくべきである 。

 それには、就労や社会活動と健康寿命には正の相関が想定されることから、「70歳までの就労一般化」と地域コミュニティの活性化を通じた「介護予防」の推進がカギである。これらに成功すれば、引退世代向け社会保障費の対GDP比率を抑えることが可能になり、それは中国をはじめ今後急速に高齢化が進むアジア各国に対し、有効な高齢化社会運営のモデルを提供し、日本のソフトパワーを大きく高めることが可能になる。

 第4は、内外人材交流の促進である。持続的な人口減少を展望すれば、有能な外国人材を長期にわたって協働する仲間として受け入れていくことが、わが国の経済社会の活性化にとって重要である。

 そのためには、外国人留学生の受け入れを積極的に進め、大卒・大学院卒や技能労働者の定住への道を広げていくべきである。一方、日本の若者がアジアをはじめとした海外での留学やワーキングホリデーに積極的に取り組めるよう、産官学で連携して働きかけることが求められよう。

 そして第5は、生産性向上と賃金上昇の好循環の形成である。「自由で公平な高質社会」というブランドを鍛え、確立していくためのカギは、良質な雇用の創出である。それには人材投資を強化し、生産性向上の成果を働く人々に公平に十分な賃金で報いることである。具体的には、賃金決定のルールづくりや人材育成・労働移動の円滑化に向けて、政労使が協力・連携して、仕組みづくりを進めていく必要がある。

◇成長か衰退か――
 試される2020年の日本

 国家債務の累増や投資収益率の低下といった多大な副作用を考慮すれば、五輪後の景気減速に際して、もはや財政の大盤振る舞いや一段の金融緩和を行うことは限界に達している。以上の成長戦略の明示により、企業が内外の経済に対して中長期的な成長期待を持つことが最大の経済対策になる。

 2020年は、後年、アジアそして世界に対して示せる「人口減少・超高齢化の中での活力ある経済社会モデル」の構築を本格的にスタートさせた年として認識されるのか、あるいは日本の本格的な衰退を決定づけた年として認識されるのか、重要な分岐点になるとの認識が必要である。
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