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免許も不要か、変わる「マイカー」
◎乗用車保有の考え崩す「完全自動運転」後の世界 土地利用や自動車保険のあり方も変えうる
 (2019/12/08 07:00 東洋経済オンライン 野口 悠紀雄)

 昨今の経済現象を鮮やかに切り、矛盾を指摘し、人々が信じて疑わない「通説」を粉砕する――。野口悠紀雄氏による連載第3回は、「あなたは自動運転が何を変えるか知ってますか」(2019年11月24日配信)に続いて、完全自動運転が実現した先の社会の変化を大胆に予測する。

 自動運転の時代になれば、自動車をめぐる環境は一変します。自動車は主に保有するものから利用するものに変わると私は見ています。そうなれば、生産量が激減する可能性があります。地価にも大きな影響があるでしょう。このとおりになるわけではありませんが、現時点でさまざまな条件を加味して、私の考えも交えて未来を予想します。

◇自動車が所有するものでなく、利用するものに
 タクシー、トラック、バスなどの自動運転や自動配送ロボットは、どれも大きな変化です。しかし、自動運転で引き起こされる変化の一部でしかありません。さらに大きな変化は、乗用車について生じます。

 つぎの3つの可能性が考えられます。

(1)今は、自動車を「所有する」ことによって利用していますが、完全自動運転になってもこれが継続するシナリオ

(2)カーシェアリングが進むシナリオ。これは、すでに進展しつつあります。大手自動車メーカーが展開しているサービスでは、好きな車を時間単位で借りられ、どこでも乗り捨て可能です。

(3)運転手のいない自動運転のタクシーが登場し、普及するシナリオ。これは「ロボタクシー」と呼ばれます。

 いつまでも(1)のままであるとは想像しがたく、どんどん(2)(3)へと移行していくものと私は考えています。

 もしロボタクシーが広範に普及すれば、自動車の利用法は現在とは大きく変わります。

 タクシーを呼べば、運転手のいない車が到着します。それに乗って目的地まで行き、そこで乗り捨て、帰りにはまたロボタクシーを呼んで自宅まで帰る、といった利用法になるでしょう。個人が乗用車を保有しなくてもタクシー会社が保有する乗用車の利用で事足りるようになるというイメージです。

 シェアリングやロボタクシーが普及すれば、自動車の稼働率が顕著に上昇すると考えられます。

 現在、自家用車の稼働率は極めて低く、1日の大部分の時間は駐車場に置かれたまま、使用されていません。日本では自家用車の平均稼働率は、4.2%程度だといわれていますが、自家用車のロボタクシーへの転換が進めば、稼働率が大きく上昇します。かつ買い替え頻度が現在と変わらないのであれば、自動車の生産台数が減る計算となります。

 もちろん、実際には頻繁に買い替えられるようになるため、販売台数や生産台数はそれほど減るわけではないでしょうが、自動車1台当たりの走行距離が延び、自動車の生産台数が激減する可能性は否定できません。

 乗用車の保有台数や生産台数がどうなるかは、さまざまな要因に依存します。

 これについては、いくつかの予測がなされています。

 コンサルティングファームのPwCは、「自動車産業を転換する5つのトレンド」2018年5月)で、つぎのように予測しています。

 ヨーロッパでは、車両保有台数は、現在の2億8000万台超から、2030年には2億台へと、25%減少する。アメリカでも22%減少する。頻繁に買い替えられるため、新車販売台数はヨーロッパでは34%増加する。アメリカでは20%増加する。

 しかし、仮にロボタクシーの普及が進めば、保有台数は14%に減る。また、新車販売台数が50%に減少する可能性がある。 

◇自動車産業が大きく変わる
 20世紀の先進国経済は、自動車産業を中心にして発展しました。それに伴って、鉄鋼業や石油産業などが成長したのです。

 以上で見たような変化が生じれば、こうした構造が大きく変わることが予測されます。

 自動車産業は、日本の最も重要な産業の1つですから、それがこのように変わることは、日本経済に大きな影響を与え、生産量が激減する可能性があるだけでなく、自動車産業の構造が変わることが考えられます。

 自動運転車で重要なのはハードウェアでなくソフトウェアなので、自動車産業の主役がメーカーではなくなり、AIによる自動運転に関するものにシフトする可能性があります。

 携帯電話では、2000年代に同様の変化が起こりました。スマートフォンへの移行が生じ、ハードウェアを作る携帯端末メーカーからOSを提供するソフトウェア企業へと主導権が移りました。この結果、アップルとグーグルが業界をリードする企業となったのです。

 自動車の自動運転の分野では、グーグルの子会社であるウェイモが、実験車の走行キロなどで、圧倒的にリードしています。この状況を考えると、スマートフォンの場合と同様の変化が生じてもおかしくありません。

 研究開発の重点が自動運転にシフトしていくと、日本から海外に出ていってしまうかもしれません。ロボタクシーの増加によって影響を受けるのは、メーカーだけではありません。個人の自家用車を相手にするガソリンスタンドや修理工場は、商売あがったりです。

 自動車を保有する人が減る影響は、以上だけではありません。自動車を保有しなくなれば、駐車場の多くが不要になりかねません。ロボタクシーの普及だけでなく、シェアリングが進めば、同様の変化が生じるでしょう。

 現在、都市にある駐車場が激減するわけです。アメリカでは駐車場の海の中に建物があるようなところも多いので、土地利用に大きな影響があるはずです。日本でも駐車場が占めている面積は無視できません。これが必要最小限になれば、地価に対して大きな下落圧力が働きます。

 また、都心部のビルなどでは、地下駐車場が大きな比率を占めていますが、ここにも影響するかもしれません。ビルの建築形態とともに、都市の土地利用が変わるシナリオが考えられるのです。

 日本では、人口の減少によって土地に対する需要が減少しています。それに加えて駐車場が激減すると土地の供給が増大することになります。これは日本の不動産事情に極めて大きな影響を与えるでしょう。

◇免許制度は不要に
 以上で述べたことは乗用車の利用形態がどうなるか、とくにロボタクシーがどの程度普及するかによって、大きく変わります。

 それとは関わりなく、自動運転が可能になれば生じる変化もあります。それが以下で述べるようなものです。

 レベル5の完全自動運転が実現すれば、それらは免許証なしで利用できるようになるでしょう。現在でも、タクシーに乗るのに免許証を必要としないことを考えれば、当然のことです。

 事実、アメリカ・カリフォルニア州は、「自動運転車のドライバーは運転免許証を携行する必要がない」とする方針を、連邦政府に認可請求しています。免許制度や教習所のあり方も変わってしまいます。

 自動車が完全自動運転になれば、交通事故は8割以上減少するといわれます。そうなると、交通警察は縮小を余儀なくされ、警察は、大量の余剰人員を抱えることになりかねません。警察は、自動運転化によって最も大きな影響を受ける分野の一つなのです。

 現在の自動車保険は、「自動車が事故を起こす」ことを前提にして構築されています。しかし、交通事故が激減すれば、自動車保険に対する必要性も大きく減るでしょう。

 新しい自動車保険は、事故が発生した場合のメーカーなどの責任や、被害者の救済制度と、一体のものとして考えられる必要があります。

 完全自動運転車が事故を起こした場合の責任は、自動車会社などが負うことになるでしょう。ただし、責任を負う主体が、プログラムを開発した企業なのか、自動車というハードウェアのメーカーなのかが問題となります。

 また、事故の原因が車両側にあるのか、交通システムにあるかによっても、責任を負うべき主体が異なります。こうして、自動車保険の構造も大きく変わるでしょう。
| 雑感 | 03:34 | comments(0) | trackbacks(0) |









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