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トラックドライバー業界の「構造的な闇」
◎京急踏切事故で垣間見えたトラックドライバー業界の「構造的な闇」とは
 (2019年09月27日 09:02 ITmedia ビジネスオンライン)

 京浜急行線下りの快速特急電車と大型トラックが衝突した事故が起きたのは9月5日。横浜市神奈川区の「神奈川新町〜仲木戸」間の踏切だった。

 同日午前4時ごろ、千葉県香取市の運送会社を出発した13トントラックは、横浜市神奈川区にある青果市場で荷を積み、予定通り千葉県成田市へ向けて出発した。

 ところが、トラックは青果市場のある出田町ふ頭を出た先で、会社から教えられた正規のルートから外れると、最終的に京急の線路と並行する小道に進入。踏切を右折しようとしたところ立ち往生し、午前11時40分ごろ京急下りの快速電車と衝突した。

 ドライバー本人が死亡したことで、どうして過去3回使用した正規のルートを外れたのか、どうして小道から抜けるのに左折から右折に切り替えたのかなどは、もはや想像の範疇を超えない。

 元トラックドライバーの筆者自身も事故後、現場を幾度となく走り、同じ時間の道路状況を観察したりドライバーの心理を探ったりしたが、いくつもあった事故回避のポイントに立てば立つほど「どうして」という悔しさが込みあげてくる。

 そんな思いをより深くさせるのが、彼の年齢だった。67歳。トラックドライバーとして20年ほど働いた前の運送会社を退職した後、世間では「定年」と言われる歳を過ぎてもなお、2018年10月に事故当時の会社へ入社。たった1度ルートを案内されただけで、1人現場に出される現状から、業界の抱える深刻な人手不足が垣間見えるのだ。

 日本の貨物輸送の9割以上を担うトラックドライバー。「国の血液」とも称される彼らに、今何が起きているのか。その現状と改善策をひもといていきたい。

◇50歳以上が4割 進むトラックドライバーの高齢化
 昨今、人手不足は日本経済全体が直面する大きな社会問題とされているが、その中でも自動車運転業務者の不足はとりわけ顕著だ。7月の全職業(常用)の有効求人倍率1.41倍に対し、自動車運転業の有効求人倍率は3.04倍。2倍以上も高い。

 そんなトラックドライバー業界で人手不足の結果起きているのが、極端な高齢化だ。全日本トラック協会が公表している「日本のトラック輸送産業 現状と課題2018」によると、2017年時点で50歳以上の割合は約40%にも及ぶ。

 昨今、国内で高齢者ドライバーによる事故が発生するたびに免許返納が激しく議論される一方で、運送業界においては、高齢者ドライバーやその予備軍とされる60代や70代のトラックドライバーも全く珍しくない。むしろ定年後のトラックドライバーは免許取得済み、かつ多くの経験を持っていることなどから「即戦力」として優遇されているのが現状だ。

 逆に40歳未満の若い就業者は全体の約28%と少ない。国土交通省が2018年に発表した「物流を取り巻く現状について」には、29歳以下の若年層が全体の10%にも満たないという統計結果もあり、このままいけば10年後に今以上のドライバー不足に陥るのは必至だ。世間の少子高齢化でEC(電子商取引)の普及がますます広がる反面、物流はより一層追い付かなくなるだろう。

◇働き方改革は遠く 過酷・薄給な労働環境
 高齢のドライバーが第一線に立つ一方で、業界にはなかなか若手が入ってこない。その大きな要因と考えられているのがドライバーの過酷な労働環境と、それに見合わぬ低い給与水準だ。

 厚生労働省により策定されている「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」、いわゆる「改善基準告示」によると、トラックドライバーの拘束時間は1日13時間が基本だ。状況によっては上限16時間まで認められている(15時間超の拘束は週2回まで)。年間ベースでいうと1カ月で原則293時間であり、労使協定がある際は1年のうち6カ月までは1カ月320時間の労働が認められている。他産業と比べて労働にかかる時間が非常に長いのだ。

 とりわけ長距離のトラックドライバーの拘束時間は長く、関東から関西、中国、九州地方を回るとなれば、車中泊が続き1週間家に帰れないといったケースも珍しくない。

 業界の労働時間の長さは、4月に施行された「改正労働基準法」、いわゆる「働き方改革」にも反映されている。他の業種の時間外労働上限が720時間へと順次適用されている中、自動車運転業務においては、「人手不足と過酷な労働環境の改善に時間を要する」という判断から、年間960時間と他業種より規定時間が長い。適用までにも2024年までの5年間という猶予が与えられたほどだ。

 その一方、賃金においては厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」によると、トラックドライバーの年間所得額は、全産業平均491万円と比較して、大型トラック運転者は454万円と約1割低く、中小型トラック運転者は415万円と約2割低い。

 過酷な労働のうえ、低賃金。人手不足に悩む多くの運送業者からは、「こうした労働環境を敬遠し、体力のある若手ドライバーがなかなか定着しない」と嘆く声が上がるものの、もはや自分たちの立場ではどうすることもできないのが現状なのだ。

 もう1つ、若手が入ってこない要因として「運転免許の改定」を挙げる関係者も少なくない。現在、中長距離を走るのに重宝されているトラックの1つに4トン車というものがあるが、旧免許制度の普通免許なら運転できたこの4トン車が、免許制度の改定により中型免許がないと運転できなくなったのだ。

 中型免許を取得するには、普通免許取得から2年以上の経験が必要となる。そのため、高校を卒業して就職しようとする若者が、中長距離を担う運送企業に入ってこなくなったという。

 また、こうした中型車を取得するには無論、教習所への再入所が必要となる。免許取得費用を支給してくれる会社もあるものの、その時間と手間を考えれば、やはり若者にとって物流業界への就職はハードルが高いのだ。

◇規制緩和がもたらした「過当競争の悪夢」
 そんな人手不足につながる過酷な労働環境、低賃金に陥ったそもそもの根源として、多くのトラックドライバーや運送企業経営者が挙げる存在がある。1990年に制定された「物流二法」だ。

 「貨物自動車運送事業法」と「貨物運送取扱事業法(後の「貨物利用運送事業法」)」を指すこの法は、物流業界の新規参入を促すため、従来の免許制を許可制にしたり、最低保有車両台数を下げたりするなどいった規制緩和を行い、活性化を図ったものだ。

 施行後、国の狙い通り価格競争やサービスの多様化につながるきっかけにはなったが、物流の現場では行き過ぎた下請け・孫請けに続くダンピングが横行するように。過当競争による「荷主第一主義」という力関係が生じる。

 これにより末端企業は、赤字と分かっていながらも、付き合いや次の仕事につなげるために仕方なく仕事を受けたり、ドライバーによる荷物の積み降ろしや長時間の荷待ちなどといった、いわゆる「ついで仕事」が常態化したりしていった。中には、荷主から過積載などの違法行為を強要されるといった弊害までもが起きる結果となったのである。

◇老化で顕著な「判断スピードの低下」
 では、こうした過酷な労働環境が引き起こしたトラックドライバーの高齢化は、現場の当事者たちにどのような弊害を起こし得るのか。

 今回、現役ドライバーに「老化を感じること」を問うたところ、「体にたまった疲労が抜けなくなった」「荷降ろしに時間がかかるようになった」という体力面の症状のほか、「地図が読めなくなった」「判断力が鈍るようになった」など、思考能力に関わる症状を訴える人も多くいた。

 特に「判断スピードの低下」は、昨今、75歳以上のドライバーが免許更新の際に課される「認知機能検査」でもなかなか判断しづらい。そんな中、高齢ドライバーが走行中に標識を発見し、その意味を脳で判断して行動に移すまでに時間がかかるようになれば、危険を回避しようとしても手遅れになる。

 実際、今回の事故現場にも小道に入る手前の道路に大きな標識は出ていたが、設置場所は回避できそうな側道よりも奥にあった。1枚の標識に載っている情報が多く複雑なこともあり、判断が一瞬遅れた可能性がある。こうして危険回避の機会を失えば、たとえ認知症のドライバーでなくとも、誰しも今回のような小道に入ってしまうことは十分考えられるのだ。

◇池袋事故で浮上した「ブレーキ踏み間違い」の真相
 ドライバーの高齢化で問題に上るのは、老化による能力低下だけではない。昨今、高齢ドライバーによるアクセルとブレーキの踏み間違いが原因の事故がよく取り沙汰されているが、その背景として懸念されているのが、運送業界でのオートマチック車(AT車)の普及だ。

 最近ではクルマ側の難易度を下げることで高齢者や女性でも運転できるように、トラックメーカーがマニュアル車(MT車)より比較的運転しやすいAT車や、AT車とMT車の中間とされるセミオートマチック車(AMT車)などを開発・商品化している。運送企業も積極的にこれらのクルマを採用する動きが目立ち始め、中には所有するMT車を全てAT・AMT車に買い替えた会社もある。

 基本的にMT車は左足でのクラッチ操作、左手でのシフトチェンジが必要で、右足1本でクルマが直進することはない。しかし、AT車はアクセルさえ踏めば進んでしまう。

 4月、日本中が注目した高齢者ドライバーによる池袋でのアクセルとブレーキの踏み間違い事故に加え、翌々日に神戸市・三宮で発生した市営バスの事故も、当時64歳の運転士による踏み間違いが原因だった。事故を起こしたバスがもしMT車だったら、交差点に進入することもなく、2人の犠牲者も出ていなかったはずだ。

◇高齢ドライバー問題は「人ごと」ではない
 一筋縄ではいかない、物流業界の人手不足に起因する高齢化問題。これらを改善するには、トラックドライバーの労働環境の改善と賃金の見直し、加えてより安全な車両の開発といった抜本的な対策が必要と言えるだろう。

 そしてもう1つ、物流サービスのエンドユーザーである私たち消費者もまた、このテーマを少しでも「自分の生活と決して無縁ではない問題」として捉える必要があるのではないだろうか。

 先述の通り、国内貨物輸送の9割以上はトラックによる輸送だ。私たちが生活する上で目に入るほとんど全ての物が、1度以上はトラックで運ばれてきたことになると考えれば、もはやトラックドライバーの人手不足は業界内だけで考えるべき問題ではない。消費者の都合による度重なる再配達は、トラックドライバーの負担を確実に増大させているという現実もある。

 今や世間から「使えて当然」として捉えられている、無料配送や時間帯指定配送、再配達といった日本の優れた物流サービス。私たちがこれらの利便性を享受できる背景には、彼らドライバーの過酷な労働環境があることを忘れてはならない。事故現場の踏切に残された長く伸びた黒いタイヤ痕に目をやるたびに思うのだ。

※著者プロフィール 橋本愛喜(はしもと あいき)
 大阪府出身。大学卒業後、金型関連工場の2代目として職人育成や品質管理などに従事。その傍ら、非常勤の日本語教師として60カ国4000人の留学生や駐在員と交流を持つ。米国・ニューヨークに拠点を移し、某テレビ局内で報道の現場に身を置きながら、マイノリティにフィーチャーしたドキュメンタリー記事の執筆を開始。現在は日米韓を行き来し、国際文化差異から中小零細企業の労働問題、IT関連記事まで幅広く執筆中。
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