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年金、見込めない「バラ色の給付」
 「いつか年金制度は潰れてしまうのではないか?」と言う懸念は大変に多いものが有ります。「普通の人が普通に働いて普通に暮らせる」安心が欲しいです。そのためには、雇用と年金は一体的に考えて行く必要があります。

◎「公的年金は潰れる」論は「トンデモ系」
 (5月7日 プレジデントオンライン 香取 照幸)

 いつか年金制度は潰れてしまうのではないか――? そんな疑問に対し、内閣官房内閣審議官として「社会保障・税一体改革」を取りまとめた"ミスター年金"が制度をわかりやすく説く。

◇今の日本はすでに1人で1人を支える「肩車」状態
 公的年金制度の基本的仕組みは、「働いている現役世代が生み出した付加価値を、生産から退いた高齢者に配る」ことです。

 公的年金制度は、よく「肩車」や「騎馬戦」などにたとえられますが、「働いている人が働いていない人を含めた全人口を支える」という意味では公的年金も普通の社会と基本構造は同じです。

 2015年の日本の総人口は約1億2700万、生産年齢人口は約7700万ですが、実際に働いている人数(労働力人口)は6600万で総人口の約50%にすぎません。6600万人で1億2700万人を支えている。今の日本だってすでに「1人で1人を支える『肩車』」になっているのです。

 今、日本経済は潰れていません。しかし、今後日本はさらなる高齢化・少子化・人口減少・労働力人口減少が進んでいろいろ厳しい局面を迎えます。このことは公的年金についても言えることです。支え手が減って受給者が増える。制度は潰れはしませんが、バラ色の給付というわけにはいきません。

 公的年金制度の課題は、日本社会と日本経済が直面する課題そのものです。できる改革は進めていかなければなりません。「公的年金は日本社会・経済の縮図」なのだということをまず理解してください。

▼年金は貯蓄でもなく、金融商品でもない
 このことから、公的年金を考えるときのポイントをいくつか導き出すことができます。

 第1に、公的年金は「付加価値の分配」ですから、経済の実力以上の年金制度というのはありえません。もし現役世代が負担に耐えきれず年金が潰れるというときが来るとしたら、その前に日本経済が潰れているはずです。逆に言えば、日本経済が潰れない限り、公的年金は潰れません。

 第2に、年金が抱える課題は年金の世界だけで考えていても解決できません。処方箋の多くは年金制度の外にあります。少子化/家族支援対策・経済政策・雇用労働政策等々、日本社会・経済の課題解決が年金制度の課題解決につながります。

 第3に、経済学者の大好きな年金の財政方式に関する論議は問題解決にとって意味を持ちません。

 積立方式でも賦課方式でも、民営化しようがどうしようが、「現役の生んだ付加価値の分配」という制度の本質に変わりはありませんから、それで給付水準が上がるわけでも年金財政がより安定するわけでもありません。制度が潰れるわけでもないのに、土台ごとひっくり返すような制度変更をするのは馬鹿げています。

 もうひとつ大事なことがあります。公的年金は「貯蓄」でも「金融商品」でもない。「保険」だということです。

 何を「保険」の対象にしているかというと、「長生きのリスク」です。寿命は誰にもわかりません。「長生きしても困らない」ためにあるのが公的年金です。だから世界中どこでも公的年金は必ず「終身給付」です。

 「生きている限り、いつまででも保障します」が公的年金の基本機能です。

 払い込んだ保険料の総額とは関係ありません。金融商品である私的年金との決定的な違いはここにあります。「保険」ですから損得論は無意味です。死んでお金は持っていけませんし、その必要もないはずです。

 以上、簡単なことですが、多くの経済学者のみなさんは、社会保障の基本哲学をちゃんと勉強していないのかよくわかっていない人が多いです。

 「公的年金は潰れる」、「巨額の債務超過・積立不足がある」、「民営化すれば効率化できる」なんてまだ議論している人がいたら、その人の唱えている社会保障論はまず「トンデモ系」と思っていただいて結構です。

◇今後30年間が「労働力人口減⇔高齢者増」の厳しい時期
 これらのことを頭において、これから10年、20年先の公的年金制度がどうなるか、どうすればいいのかについて考えてみます。

 今後、労働力人口は減少します。現在6600万人の労働力人口は2030年には最大5300万人にまで減少し、その後も減少していきます。他方で65歳以上の高齢者人口は2040年あたりまで増え続け、その後減少に転じます。

 その後は労働力人口も高齢者人口も減っていきますが、高齢世代と現役世代の人口バランスは取れていくので年金制度は安定していきます。

 つまり、今後20〜30年間が「労働力人口が減るのに高齢者は増え続ける」という一番厳しい時期だということです。この「胸突き八丁」をどう乗り切るかが日本社会と経済全体の課題であり、社会保障と公的年金制度の課題でもあるわけです。

 この課題を解決する抜本的な対策は、支え手=働く人を増やし、総人口に占める労働力人口の割合を増やすか、増やせないまでもせめて維持するかしかありません。

 少子化対策はもちろん大事ですが、2018年生まれた子どもが支え手になるまでには20年かかりますから、同時に足元の対策が必要です。

 元気な高齢者には働いてもらう、より多くの女性が普通に働けるようにする、若い世代をフリーターなどで無駄に使わないでちゃんとフルタイムで働いてもらう、ということです。

 大きな視点で公的年金制度の持続可能性、財政の安定と老後の所得保障の両立を考えるのなら、雇用と年金をセットにした制度設計がぜひとも必要です。現役の雇用と所得の保障が公的年金制度の安定とその人自身の老後保障につながるからです。

 「日本社会の課題」とか言って他人任せにして、公的年金制度は自分では何も改革しないのか? と言われそうです。もちろんそんなことはありません。

 この厳しい20〜30年間を乗り切るために公的年金制度では2つの仕掛けを用意しています。

 1つは積立金の活用です。日本の年金積立金は約170兆円(2017年3月末)。日本の公的年金基金(GPIF)は世界最大の年金基金です。この積立金と運用益を計画的に取り崩して給付に回すことで、現役の負担上昇や高齢者の給付水準低下を抑制します。

 もうひとつが、「マクロ経済スライド」です。それは簡単に言えば「現役世代が負担できる範囲に収まるように年金給付を調整する」という仕組みです。

 年金給付は実質価値維持のため物価スライドしますが、一定の計算式に従ってこのスライド率を割り引くことで年金の実質水準を引き下げ、年金給付総額を調整して長期的な収支バランスを確保する、というのがマクロ経済スライドです。

 この仕組みの導入によって公的年金財政は安定しましたが、給付水準は少しずつ引き下げられていきます。マクロの制度は維持できてもミクロ、つまり個々の受給者にとっての年金の所得保障機能は縮小していくわけです。

 そして、当然ながらマクロ経済スライドによる調整が長期化すればするほど、給付水準はより大きく低下します。なので、この仕組み導入後の公的年金制度の課題は、ミクロの給付をいかに守るか、つまりマクロ経済スライド調整期間をいかに短くするか、ということになります。

 そもそもこの「マクロ経済スライド」は、永遠にやりつづけるものではありません。年金財政の長期的収支が確保できればそこで終わりになります。端的に言えば「胸突き八丁」を乗り切るための仕掛けなのです。

◇約50年間で平均余命は10年以上延び、その分、老後期間が延びた
 ではどうすれば調整期間を短くできるか、考えてみましょう。

 経済成長はもちろん大事です。成長して給与が増え、保険料収入が増えればそれだけ年金財政は安定し、個々人の将来の給付も確保できます。

 より重要なのは、先ほど述べた支え手=労働力人口を増やすことです。非正規労働者への社会保険の適用拡大も同じこと。年金制度の支え手を増やし、同時に個々人の将来の年金給付も確保する、ということです。

 さて、この「支え手を増やす」を、別の視点から考えてみましょう。

 年金制度の基本構造はミクロでもマクロでも同じです。ミクロで考えると「現役のうちに引退後を含めた一生分の所得を確保する」ということですし、それを束にしてマクロで考えれば「現役世代が生んだ付加価値で引退世代に年金を給付する」ということになります。1人でやるか、社会全体でやるかだけの違いです。

 人口が高齢化する、高齢者が増えるというのは、平均寿命が長くなり、一人一人が長生きするようになったことの結果にほかなりません。

 とすれば、もし平均寿命(引退時点での平均余命)が10年伸長したとするなら、そのうちの何年かは働く期間にして引退年齢を後ろ倒ししなければ、ミクロで見てもマクロで見ても、これまでどおりの収支バランスは成り立たないことになります。

 この約50年間に日本人の平均余命は10年以上延びました。しかし、就労期間はそれに見合うようには延びていません。平均余命が延びた分、ほぼ老後期間が延びているような状態です。

 ミクロでバランスが取れれば、マクロでもバランスが取れます。平均余命の延びに見合って就労期間を延ばすことでバランスを取ることができれば、マクロ経済スライドによる給付水準調整期間が短くなって受給水準は維持されますし、そもそも年金制度加入期間が長くなりますから年金額もアップします。

 スウェーデンでは、平均余命の延びに対してどのくらい就労期間を延ばせば給付水準が維持できるかを国民に示しています。

 たとえば1930年生まれと1995年生まれを比較し、65歳時点での平均余命は6年9カ月延びているので、引退年齢を4年4カ月延ばすとバランスする(給付水準が維持できる)、という具合です。

 繰り返しますが、年金は社会や経済の縮図です。平均寿命の伸長に合わせて働く期間を長くするというのは、本人のためにも社会全体の持続可能性を確保するためにも必要なことです。そのことを年金の世界で考えればこうなるというだけの話です。

 かくして、話は戻ります。雇用保障と年金をセットにした制度設計。雇用政策と一体となった年金制度改革。これがぜひとも必要です。「普通の人が普通に働いて普通に暮らせる」仕組みの構築を目指し、雇用と年金は一体的に考えるということです。

※本稿は個人的見解を示したものであり、外務省ともアゼルバイジャン大使館とも一切関係ありません

※香取照幸(かとり・てるゆき)
 1956年、東京都生まれ。東京大卒。厚生労働省で政策統括官、年金局長、雇用均等・児童家庭局長を歴任。内閣官房内閣審議官として「社会保障・税一体改革」を取りまとめた。現駐アゼルバイジャン共和国大使。
| 福祉・医療と教育 | 12:02 | comments(0) | trackbacks(0) |









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