2013.01.15 Tuesday
イギリスがEU脱退?
欧州連合(EU)が、「EU離れ」を強める英国に苦慮しております。
EUは、債務危機を受け、経済・財政に加えて将来的には政治も含めた統合強化を目指しておりますが、こうした動きが逆に英国の孤立化を深めかねず、「英国のEU脱退」を危ぶむ声すら上がっております。
米国のゴードン国務次官補(欧州・ユーラシア担当)も9日、訪問先のロンドンで記者団に、英国内で欧州連合(EU)からの離脱論が強まっていることについて、「英国がEU内にとどまり、強い発言力を持つことを望む」として、懸念を表明しました。
英国抜きの欧州では国際社会における影響力低下が避けられず、英国との関係のあり方が課題となりますが、その背景と現実味についての記事がありましたので、ご紹介させていただきます。
◎英首相、ジレンマ 国内高まるEU脱退論 欧米諸国は阻止へ圧力
(産経新聞 1月13日(日)7時55分配信)
英国のキャメロン首相が、国内で高まる欧州連合(EU)からの脱退論と、英国のEU脱退を阻止すべく圧力をかける欧米諸国との間で、ジレンマに立たされている。政府内からも、EUへの権限集中が緩和されない限り脱退も致し方ないとの見方が出始めた。首相が今月22日に行うとされるEUについての重要演説の内容に注目が集まっている。
英国におけるEU脱退論の高まりは、近年のユーロ危機や東欧圏からの移民の増大など、英国の国家主権を揺るがす事態が起きていることが背景にある。英国は銀行同盟の創設など最近の統合深化をめぐる協議でも一線を画し、孤立感を深めている。世論調査ではすでに、EU脱退派が過半数に達している。
キャメロン首相は「脱退は国益に反する」と訴えてきたが、与党・保守党の強硬派は、来年にもEU脱退の可否を問う国民投票を実施するよう要求。2015年の総選挙後に国民投票を実施すると語っていた首相への突き上げはさらに厳しくなっている。
一方、英国の最大の同盟国、米国のゴードン国務次官補(欧州問題)が訪英し9日、英メディアに「米国はEU内で英国が持つ発言力に期待する」と述べて脱退論を牽制(けんせい)。国民投票実施に懐疑的な立場を示した。
米国にとっては、「価値観を共有する特別なパートナー」である英国を通じてEUやユーロ圏への政治的な影響力を保持したいとの思惑がある。だが、英保守系議員らが「米国は英国の内政に干渉をすべきではない」と猛反発。逆に国民投票の実施を急ぐべきだとの意見も出てきている。
ただ、オズボーン英財務相はドイツ紙に対し、「英国はEUの加盟国であり続けたいが、そのためには、EUの改革が不可欠である」との考えを示した。英国側は司法や行政、労働政策などこれまでEU側に譲渡していた権限を取り戻さない限り、脱退論は収まらないとみる。
しかし、EU側やドイツなどは「英国側の要求をのめば、それに続こうという国々が現れ、EU崩壊というパンドラの箱を開けることになりかねない」との危機感から、譲歩する姿勢は一切見せていない。
英紙フィナンシャル・タイムズは10日付の社説で、1980年代、欧州単一市場や統合拡大を主導したサッチャー元首相のように「キャメロン首相もEUで主導的な立場をとるべきだ」と主張。経済界も脱退の経済的な打撃はかなり大きいとしており、首相は、難しいかじ取りを迫られている。
【用語解説】英国と欧州連合(EU)
英国は1961年、後にEUとなる欧州経済共同体(EEC)への加盟を申請するがフランスが反対。73年、欧州共同体(EC)に加盟した。2002年の単一通貨ユーロ流通開始後はユーロ圏に加わらず、域内の自由移動を認めるシェンゲン協定も一部を除き参加していない。11年末の欧州理事会ではユーロ危機対応のためのEU基本条約の改正に唯一、反対した。
◎イギリスに迫るEU脱退の現実味
(ニューズウィーク日本版 2012年12月20日)
イギリスはEU(欧州連合)から脱退すべきだ──イギリス人の56%がそう望んでいるとの世論調査が11月半ばに発表され、国民投票による決着を求める圧力は日増しに高まっている。
ユーロ危機が長引くなか、EU加盟国だがユーロ圏には属さないイギリスにとって「大陸」との付き合い方は大きな懸案だ。ところがキャメロン英首相は、この話題を必死で避けようとしている。
国民投票が行われれば、EU脱退派が勝つのは明白だ。11月下旬に行われたEU首脳会議で、EU予算の大幅削減やイギリスの拠出金減額といった主張が通らず、右派メディアが反発を強めていることも、脱退論の高まりに拍車を掛けている。
イギリス人のEU嫌いには歴史的な背景があるが、右派メディアによるプロパガンダの影響も大きい。
歴史的要因はこうだ。第二次大戦後、チャーチル英首相は欧州統合の必要性を訴えながらも、英連邦を率いるイギリスは統一欧州の一部にならないとした。
ところが英連邦の栄光は長く続かず、イギリスが他国との連携を模索し始めた頃には既に、EUの前身であるEEC(欧州経済共同体)が西ドイツとフランスの主導で結成されていた。63年、イギリスは初めての加盟申請をドゴール仏大統領に拒否されるという屈辱を経験。イギリスは73年にEECの後身ECに加盟したが、国民が加盟を承認したのは75年になってからだ。
◇EU参加の知られざる恩恵
興味深いのは、当時とは状況が大きく変化していることだ。75年当時、保守党が親欧州だったのに対し、労働党は欧州を労働者を搾取する資本家集団と見なしていた。それが今では、保守党陣営はEUを社会主義の最後のとりでと見なし、支持者の中でEU残留を望む人はわずか4分の1しかない。一方、労働党支持者の間でもEU残留派は4割にすぎない。
右寄りメディアによる「反EU」報道も、EU離れの大きな要因だ。彼らは長年、EUの執行機関である欧州委員会を容赦なく攻撃してきた。
実際、欧州委員会には役人の法外な高給からばかげた官僚主義まで、批判されやすい要素が満載だ。域内製品の品質を均一化するためバナナとキュウリの曲がる角度まで定めたお役所仕事を揶揄した報道は、今もイギリス人の脳裏に焼き付いている。
だが報道が常に真実を語るとは限らない。ポーランドのシコルスキ外相は先月、英ガーディアン紙に論説を寄稿して冷静な議論を呼び掛けた。イギリスのEUへの拠出金は1人当たり年間150ポンド以下で他の加盟国より低い。しかも欧州単一市場が存在するおかげで、1世帯につき年間1500〜3500ポンドの経済的恩恵を受けている──。
シコルスキはかつて共産体制下のポーランドからイギリスに亡命した人物で、キャメロンらと同時期にオックスフォード大学で学んだエリート学生クラブの一員でもあった。つまり社会主義者とは程遠い人物で、その言葉には耳を傾ける価値がある。
だが、長年かけて世論に植え付けられたEU懐疑論を消すのは不可能に近い。ユーロ危機がイギリス経済低迷の元凶とされるなか、EUへの反発は今後さらに強まるだろう。追い込まれたキャメロンはいずれ、国民投票の実施に同意せざるを得なくなるかもしれない。
ギリシャはユーロとEUからの脱退が現実味を帯びてもなお、ユーロにしがみついている。なのに、ユーロに参加したことのないイギリスがEU脱退の第1号になると目されているとは、何とも皮肉な話だ。
EUは、債務危機を受け、経済・財政に加えて将来的には政治も含めた統合強化を目指しておりますが、こうした動きが逆に英国の孤立化を深めかねず、「英国のEU脱退」を危ぶむ声すら上がっております。
米国のゴードン国務次官補(欧州・ユーラシア担当)も9日、訪問先のロンドンで記者団に、英国内で欧州連合(EU)からの離脱論が強まっていることについて、「英国がEU内にとどまり、強い発言力を持つことを望む」として、懸念を表明しました。
英国抜きの欧州では国際社会における影響力低下が避けられず、英国との関係のあり方が課題となりますが、その背景と現実味についての記事がありましたので、ご紹介させていただきます。
◎英首相、ジレンマ 国内高まるEU脱退論 欧米諸国は阻止へ圧力
(産経新聞 1月13日(日)7時55分配信)
英国のキャメロン首相が、国内で高まる欧州連合(EU)からの脱退論と、英国のEU脱退を阻止すべく圧力をかける欧米諸国との間で、ジレンマに立たされている。政府内からも、EUへの権限集中が緩和されない限り脱退も致し方ないとの見方が出始めた。首相が今月22日に行うとされるEUについての重要演説の内容に注目が集まっている。
英国におけるEU脱退論の高まりは、近年のユーロ危機や東欧圏からの移民の増大など、英国の国家主権を揺るがす事態が起きていることが背景にある。英国は銀行同盟の創設など最近の統合深化をめぐる協議でも一線を画し、孤立感を深めている。世論調査ではすでに、EU脱退派が過半数に達している。
キャメロン首相は「脱退は国益に反する」と訴えてきたが、与党・保守党の強硬派は、来年にもEU脱退の可否を問う国民投票を実施するよう要求。2015年の総選挙後に国民投票を実施すると語っていた首相への突き上げはさらに厳しくなっている。
一方、英国の最大の同盟国、米国のゴードン国務次官補(欧州問題)が訪英し9日、英メディアに「米国はEU内で英国が持つ発言力に期待する」と述べて脱退論を牽制(けんせい)。国民投票実施に懐疑的な立場を示した。
米国にとっては、「価値観を共有する特別なパートナー」である英国を通じてEUやユーロ圏への政治的な影響力を保持したいとの思惑がある。だが、英保守系議員らが「米国は英国の内政に干渉をすべきではない」と猛反発。逆に国民投票の実施を急ぐべきだとの意見も出てきている。
ただ、オズボーン英財務相はドイツ紙に対し、「英国はEUの加盟国であり続けたいが、そのためには、EUの改革が不可欠である」との考えを示した。英国側は司法や行政、労働政策などこれまでEU側に譲渡していた権限を取り戻さない限り、脱退論は収まらないとみる。
しかし、EU側やドイツなどは「英国側の要求をのめば、それに続こうという国々が現れ、EU崩壊というパンドラの箱を開けることになりかねない」との危機感から、譲歩する姿勢は一切見せていない。
英紙フィナンシャル・タイムズは10日付の社説で、1980年代、欧州単一市場や統合拡大を主導したサッチャー元首相のように「キャメロン首相もEUで主導的な立場をとるべきだ」と主張。経済界も脱退の経済的な打撃はかなり大きいとしており、首相は、難しいかじ取りを迫られている。
【用語解説】英国と欧州連合(EU)
英国は1961年、後にEUとなる欧州経済共同体(EEC)への加盟を申請するがフランスが反対。73年、欧州共同体(EC)に加盟した。2002年の単一通貨ユーロ流通開始後はユーロ圏に加わらず、域内の自由移動を認めるシェンゲン協定も一部を除き参加していない。11年末の欧州理事会ではユーロ危機対応のためのEU基本条約の改正に唯一、反対した。
◎イギリスに迫るEU脱退の現実味
(ニューズウィーク日本版 2012年12月20日)
イギリスはEU(欧州連合)から脱退すべきだ──イギリス人の56%がそう望んでいるとの世論調査が11月半ばに発表され、国民投票による決着を求める圧力は日増しに高まっている。
ユーロ危機が長引くなか、EU加盟国だがユーロ圏には属さないイギリスにとって「大陸」との付き合い方は大きな懸案だ。ところがキャメロン英首相は、この話題を必死で避けようとしている。
国民投票が行われれば、EU脱退派が勝つのは明白だ。11月下旬に行われたEU首脳会議で、EU予算の大幅削減やイギリスの拠出金減額といった主張が通らず、右派メディアが反発を強めていることも、脱退論の高まりに拍車を掛けている。
イギリス人のEU嫌いには歴史的な背景があるが、右派メディアによるプロパガンダの影響も大きい。
歴史的要因はこうだ。第二次大戦後、チャーチル英首相は欧州統合の必要性を訴えながらも、英連邦を率いるイギリスは統一欧州の一部にならないとした。
ところが英連邦の栄光は長く続かず、イギリスが他国との連携を模索し始めた頃には既に、EUの前身であるEEC(欧州経済共同体)が西ドイツとフランスの主導で結成されていた。63年、イギリスは初めての加盟申請をドゴール仏大統領に拒否されるという屈辱を経験。イギリスは73年にEECの後身ECに加盟したが、国民が加盟を承認したのは75年になってからだ。
◇EU参加の知られざる恩恵
興味深いのは、当時とは状況が大きく変化していることだ。75年当時、保守党が親欧州だったのに対し、労働党は欧州を労働者を搾取する資本家集団と見なしていた。それが今では、保守党陣営はEUを社会主義の最後のとりでと見なし、支持者の中でEU残留を望む人はわずか4分の1しかない。一方、労働党支持者の間でもEU残留派は4割にすぎない。
右寄りメディアによる「反EU」報道も、EU離れの大きな要因だ。彼らは長年、EUの執行機関である欧州委員会を容赦なく攻撃してきた。
実際、欧州委員会には役人の法外な高給からばかげた官僚主義まで、批判されやすい要素が満載だ。域内製品の品質を均一化するためバナナとキュウリの曲がる角度まで定めたお役所仕事を揶揄した報道は、今もイギリス人の脳裏に焼き付いている。
だが報道が常に真実を語るとは限らない。ポーランドのシコルスキ外相は先月、英ガーディアン紙に論説を寄稿して冷静な議論を呼び掛けた。イギリスのEUへの拠出金は1人当たり年間150ポンド以下で他の加盟国より低い。しかも欧州単一市場が存在するおかげで、1世帯につき年間1500〜3500ポンドの経済的恩恵を受けている──。
シコルスキはかつて共産体制下のポーランドからイギリスに亡命した人物で、キャメロンらと同時期にオックスフォード大学で学んだエリート学生クラブの一員でもあった。つまり社会主義者とは程遠い人物で、その言葉には耳を傾ける価値がある。
だが、長年かけて世論に植え付けられたEU懐疑論を消すのは不可能に近い。ユーロ危機がイギリス経済低迷の元凶とされるなか、EUへの反発は今後さらに強まるだろう。追い込まれたキャメロンはいずれ、国民投票の実施に同意せざるを得なくなるかもしれない。
ギリシャはユーロとEUからの脱退が現実味を帯びてもなお、ユーロにしがみついている。なのに、ユーロに参加したことのないイギリスがEU脱退の第1号になると目されているとは、何とも皮肉な話だ。
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